VEGA Ⅰ型 (No-11) 山本昇氏オリジナル設定機 Part-3

  
● 行程的には逆行しますが、胴体内部のリンケージの解説です。画像はエレベータリンケージです。ロッドにはOK模型のフレキシブルパイプを使っています。フライングスタビのクランクユニットが垂直尾翼に内蔵されるクロス尾翼配置なので、なるべく直線配置に成る様に設定しました。リンケージパイプの上下に見えるヒノキ棒は、胴体側の延長翼の補助スパーです。この間を抜ける様にリンケージします。此れは山本オリジナルのヴェガと構造は同じです。更に言うなら山本オリジナル機の場合・・・、クランク式のエルロンホーンもこの隙間を抜ける仕様でした。印刷イラストや縮小三面図からは、イマイチ解らなかった構造が明確に成ったんじゃないでしょうか。これ等を組み込まないと胴体のプランクが勧められなかったんですよねえ・・・。
  
● オリジナル機には無かったスタビ側クランクユニット下部のサービスハッチです。山本さんの時代のプロポはまだAM式だったので、金属ノイズを拾い易く、拾うとノイズが発生して誤動作を起こす危険性が有りました。此れの対処として、真鍮板のクランクの先に樹脂製のサーボホーンの一部をビス止めして、金属製ピンを内蔵したアジャスターとしました。しかし本機の場合は、樹脂製ホーンに対して樹脂製ピンのアジャスターなので、強い衝撃ではピンが折れる可能性も考慮して交換可能が出来る様にハッチ式としました。ご存知の通り、パイプ式リンケージロッドは、三か所を固定すると胴体内部でのパイプの弛みによる誤動作が発生しません。ですが、アジャスターピンの交換の際はガイドパイプがある程度自由に成らないと、抜き取る事が出来ません。其処で画像に見えるブラケットを取り付け、交換の際はブラケットを緩めればガイドパイプ自体が自由に成るので、内蔵ロッドの抜き差しが可能になります。だから、ハッチが胴枠越えしているんですよねえ。
  
● 垂直尾翼のフロント側フィンの工作です。山本さんのオリジナルの場合・・・逆アールの前縁はあるんですが、内蔵のリブはありませんでした。其のまま1mmバルサでプランクしています。本機の場合は強度保持の為と、工作の確実性を狙ってリブを入れて1mmバルサでプランクしました。どちらの構造でも好いとは思いますよ。大した重量増加には成りませんから・・・。むしろ工作は此方の方が楽ですよ。

● 本機の製作に着手する以前・・・、大観峰サイトのお仲間さんとヴェガの話題で盛り上がったんですが、誰も作ってみようとは思わなかったそうです。何故なら・・・自分の頭の中でその組立ての段取りが完成しなかったそうで・・・。ガルモデルのキットは作り倒した猛者さんでも、このヴェガだけはシュミレーション不可だったみたいですなあ・・・。お気持ち良く解りますよ。だって大手のメーカーさんが、如何に触手を延ばしそうな機体フォルムなんですが、開発室でも散々検証したと思うんですが、ライセンスを習得してキット化しようとは思わなかったんでしょうなあ。キットに複雑な各種治具をセットしないと組むのは難しいからでしょうね。当時のキット価格設定なら10万円クラスですよ。そら!売れんでしょうなあ(笑)・・・。
  
● 本機ヴェガの主翼には2度の捻り下げが入れてあります。テーパー比率が1対3というデルタ翼みたいな構成です。よって翼端失速対策として必要な処置なんですが、エルロンも捻る必要が有るんですなあ・・・。山本さんはムクのエルロン材を、コンロで炙って捻る方法を解説されていますが・・・。果してどれだけのモデラーが実践できたのか疑問に成っているんですなあ。私の記憶に無いって事は、多分誰も実践しなかったんでしょうなあ。飛行場でもネット上でも話題になりませんし。

● 本機製作に入る前・・・ムクのエルロン材をコンロで炙ってみたんですが、イマイチ安定しないんですよねえ・・・。よって工作は面倒臭くなりますが、リブ組みの全面プランク構造でエルロン材を作ってみようと思います。其の為の治具を画像で紹介しています。この治具自体に捻り設定が入れてあります。この治具を定盤の上に固定して、この治具上でエルロン材を組み立てて行くと、捻り下げの付いたエルロン材が出来上がります。
  
● F3Aのキットのお話ですが、全面プランクの主翼の場合・・・説明書通りに作らないと必ず左右どちらかの主翼が捻じれた場合、その主翼は使い物に成らないと言われていました。修正する方法は無い事も無いんですが、玄人さんでも丁半博打レベル・・・成功率50%なのでやって成功するか失敗するかの修理方法です。よって自前の治具を造った方が良いみたいですよ。本機のエルロンも捻る事が前提なので、捻った治具上で捻りを維持出来るエルロン材にするには接着面が多い方が良いんですなあ。よって筋交いも入れての全面プランクです。此れでもムクのエルロン材よりは軽量になります。
  
● 本機のエルロンサーボの搭載は縦積みです。サーボホーンが主翼のプランク面とツライチです。薄型のサーボとはいえ翼弦が350mmもあれば、サーボは丸々沈める事が出来ます。サーボカバーの厚みは禁断の5mmも有るんですが、バルサなので軽量です。翼型に沿って緩いアール面に仕上げています。リブ間が広いのでリードハーネスも無理なく収められますし、サーボがホーン毎完全にツライチなので空気抵抗も最小限です。
  
● いよいよ本陣!キャノピーの製作です。まずはコクピットに載る形状の木型を作ります。市販のグライダーキットのキャノピーが割れてしまったら・・・もしくは昭和の遺物みたいなグラス胴のキットを手に入れたけど、キャノピーが腐って使い物に成らなくなった時にも使えるキャノピー再生方です。誰でも根性が有れば出来ますよ。木型には硬いバルサを組み合わせて使っています。
  
● キャノピーに限らず木型の形状と言うのは決まり事があります。床に成る投影面積が一番広く成る様に作らなければなりません。此れは基本的工作の形状です。高熱のシートを圧着するのですから、木型が柔らかいと収縮する傾向にあります。よって実の詰まったスーパーハードバルサで木型を作り、表面の木目や細かい気泡孔を塞ぐ意味でポリ樹脂を数回塗布します。木型・樹脂型・金型・・・全てに共通する表面処理なんですなあ・・・。
  
● 今回は工房独自の型押し成型を使いました。ただ・・・山本オリジナル機の場合、当時の時代背景から考察すると、木型を起こして作ったキャノピーじゃ無いかもしれませんなあ・・・。当時は大手メーカーから自作モデラーの為に、大小水滴型のキャノピーが市販されていたんですが・・・。何処かのメーカーの市販キャノピーのラインに合わせて本機の機首部分は決定した可能性がありますね。別の言い方をするならば、現在でも入手可能な市販のキャノピーを購入してオリジナルデザインの自作機を作る事は、然程難しくは無いんじゃないでしょうかねえ。人間は進化する生物なんですが、便利な世の中に成れば成る程考える事をしなくなるので退化すると言われています。現在の模型世界と相通ずるものがありますなあ・・・。今、若年層に流行の兆しが有るカセットテープやらLP盤のレコードやら売れに売れ捲ってるらしいですなあ・・・。模型業界も原点回帰・・・数種類の市販キャノピーを単品販売するのも、自作ブームに火をつけるきっかけに成るんじゃないですかねえ・・・トムさん!。

● 自作機が増えたらバルサキットが売れなくなってしまうじゃないかあああああ!・・・って嘆き悲しむのは、ド素人のモデラーさんのみ・・・。自作をやってる人の経歴を少し語るとすれば、とにかく市販キットを作り倒していると言う事ですなあ・・・。何故なら、メーカーの開発部が興味津々になる要素が満載だからですよ。其れだけじゃないんですなあ・・・。自作モデラーが増えるって事は、キットメーカーにしてみればユーザー側の動向が解る訳だから、売れ筋の商品開発にも拍車が掛かるんですなあ・・・。よって、自作機が増えるって事は、欲しいキットが無いから自分で作るんですよ。でもアクセサリーパーツは充実してますので、ドン殻のみ作れれば良いわけですなあ。其れが開発部には好都合・・・。個人の作品を観て、同じものが欲しいけど自分では作れない・・・。でも、其れに近いキットが有れば天の助け・・・。そうやって模型業界は成長して来ました。
  
● いよいよフィルムによる被覆作業です。特徴ある垂直尾翼の形状なので、形紙を作ってからフィルムの裁断を行います。左右対称で作るには形紙の裏と表を使ってフィルムにトレースして切り抜けば失敗しませんよ。これも経験値・・・。今回はオラカバドライを使いました。引きの強いフィルムですが、構造的には頑丈な部類の垂直尾翼なので、実は生地完成状態でもかなり頑丈です。此れだけ極端なテーパー比ですしね。
  
● 市販のフィルムは幅が600~650mmと決まっています。画像の様な左右対称のフィルムを切り出す時は、合わせ取りの手法を取らないと使えない端切れみたいな寸法が沢山残ってしまいます。此れは本機の主翼と水平尾翼にも言える事です。切り方を間違えると最悪二面分のフィルムは貼り込めない事態が出て来ます。フィルムには裏表が在りますので、こういう事態が起こります。
  
● ヴェガのオリジナル機の被覆は、胴体側を絹張塗装仕上げ・・・主翼と水平尾翼をソラーフィルムで貼り込んであります。何故、胴体にフィルムを貼り込まなかったのか?・・・。今回、オラカバドライを貼ってみてその理由が解った気がします。本機の胴体は完全なる平面が殆どありません。フィルムをアイロンで貼る時は収縮が基本なんですが、本機の胴体には引き延ばすという荒業も必要に成ります。引き延ばしたかと思ったら、次の範囲は収縮が必要になる・・・。そういった複雑な貼り込みが要求される特殊技術が要るんです。

● 一方・・・絹張の場合、短冊張りを使う事が可能です。所謂・・・切り張りが出来るので、複雑な曲面にも対応が出来ます。切り張りなので継ぎ目が沢山出来ますが、シルク生地自体がフィルムよりも薄いので、中塗りのサフェーサー辺りで継ぎ目の段差は消す事も出来ます。山本氏の後日談として、胴体を絹張塗装したので予定よりも重くなったと記載しています。ただ・・・当時のフィルムは、熱を加え過ぎると孔が開いたり顔料がフィルムから剥がれたりしました。多分、バルサの生地状態の時に、普段よりも厚めにクリアラッカーを刷毛塗って下地を作ったんじゃないでしょうかねえ・・・。此れだけ複雑なアール面を有する胴体ですし・・・。絹張・紙張の時は、塗り込んだクリアラッカーをシンナーで溶かしながら貼り込みます。よって下地作りが大変大事と言われるのは、其れが理由です。ただし、フィルムよりも重くなるのは覚悟した方が良いでしょうね。
  
● 21世紀・・・新生ヴェガは完成です。アウトラインは山本オリジナル機から一切変えずに製作しました。内部構造は時代背景に沿った形で改造を施しました。全備重量は山本さんの機体よりも150グラム程軽くなりました。元々山本さんの見込んだ重さに成ったと言えます。10%ほど軽くなると、風速2メートルほど弱くなっても浮きが良くなります。お山の風速状況に対応出来る範囲が広がったとも言えます。初飛行は令和元年に予定していましたが、世界的な諸事情によって未だ実現していません。更に空物ラジコンには、実質運転免許に相当するリモートID登録が必要に成りました。戦争に使う兵器と純粋な趣味で扱うラジコン飛行機の区別が着かない世の中に成ったからです。作る事は出来ても飛ばすには許可が必要な時代が来てしまいました・・・。其れも時代の流れなら、素直に受け入れて従う事も必要でしょう・・・。

● 何度も言いますが、飛ばす事には制限が在りますが・・・作る事には今の所、制限がありません。今後も機会が有れば昭和の名機を復刻していきましょう。尚、どんなに懇願されても本機の製作依頼はお断りします。当工房の方針で、ライセンス未収得の飛翔体の無許可販売は行いません。充分ご理解下さい・・・。(令和4年5月8日記載)