✈ Lo-100 (1/3,5) 工房オリジナル機 Part-(1) (2) (3)

 ※ 胴体は既に完成しています。過去・・・大御所さんからの依頼で、胴体は生地完成・・・主翼はキットにして欲しいとの製作依頼を受けたんですが、キットにするって事は試作の機体を作る必要があるので、結局大赤字に成りました。この製作記事は、自作モデラーさんの為の資料だと思ってくれれば良いですよ。貴方の為だけのカスタムな一機の完成機は出来るんですが・・・貴方の為のカスタムなバルサキット一機分は、完全完成の一機よりも高価になる事を覚えておきましょう。大手のメーカーに頼んだとしても、同じ答えをされるでしょうね。キットにすれば安くなる・・・いったい誰が言い出したんだろうか・・・。
 
● どちらの大御所も熊本のグライダー・インストラクターさんです。ところが翼型と上反角を其々指定されたので困った事に・・・。本機には実機が存在しているんですが、この実機の翼型に沿った主翼の迎角(取り付け角)と、水平尾翼の取り付け角が最初から決まっているモノを・・・翼型の変更と成ると、水平尾翼の取り付け角が解らなくなりました。其処で本機の胴体には、水平尾翼の取り付け角を変更出来る機能を付けて有ります。

● 更に主翼は基本左右二分割の分解翼なんですが、胴体と一体となるカンザシ固定のセンター翼を、胴体とは半固定(取り外し型)にしたので、色んな翼型を試せる機体と成りました。全ての翼型に対応出来るセンター翼ユニットという意味ではありません。一種類の主翼に対応出来るセンター翼ユニットという意味です。別の言い方をするならば・・・ユニットの底部は平面で他のユニットと共通なので、交換が可能です。言わば弱風時の浮きの良い翼型と強風時の走る翼型の両方が使える機体構造だと思って下さい。
 
● 今回製作した本機なんですが、片翼分の主翼の表面上・・・少なくとも三種類の翼が混在しています。フラップが付いた内翼は、完全なる矩形翼(単形翼)ですが・・・、外翼は前縁側が均等座標のテーパー形状なのに対して、後縁側は楕円の形状に成っています。こういう表面形のリブ型は、外翼の後縁側が全て翼弦が変化するので作図が大変難しく成るんです。

● 更に・・・前縁側は矩形翼の一部と前縁側のテーパー具合が交差しているので、ある意味・・・翼型の違ったリブを一つの主翼に納めるといった大変な作業を、大御所さん達に要求する事に成るので・・・結局の所、組み立てを途中で放棄してしまい・・・私が全て組立てる羽目に成りました(笑)・・・。

● しかしながら・・・この複雑な実機と同じ表面形を持った模型機が、その後の飛行で高性能を発揮するとは・・・実際の初飛行までは誰も知らない訳ですが・・・。この実機(Lo-100)に採用された複雑な翼型の集合体が、結果的に主翼を意図的に捻じらなくても、捻じり下げ効果の期待できる(Sカンバ―翼)に成ってしまったんだから驚くべき結果です。
          
● イラスト画像の上が外翼のリブ・・・下が内翼のリブです。内翼のリブは至って普通の翼型なんですが、外翼はヒンジラインより後部がSカンバ―状に成っています。何故こうなったのかと言えば、ヒンジラインは直線で構成しないとエルロンがスムーズに上下に動きません。しかし・・・本機の外翼の後縁側は楕円なので、均等座標のリブが使えません。

● 更に本機の様な主翼のスパンが3メートルの大型機となると、エルロンのヒンジをテープに頼る事が出来なく成ります。仮にテープヒンジにするには、翼型全部を単調な形状にする必要が有るんです・・・。過去のラジコンブームで小型のグライダーが流行った時代に、翼型がデタラメな完成機販売の中華製(Lo-100)を観た事が有るんですが・・・殆どまともに飛びませんでしたね。その機体のヒンジにはテープが使われていましたが、ヒンジラインが歪だったのでスムーズには動いていませんでした。

● 本機の場合・・・翼型を全て相似形で揃えると、後縁側の楕円形は表現出来ますが・・・ヒンジラインも楕円に成ってしまうのでエルロンが着けられません・・・。ならば直線でヒンジラインを作ると、今度はリブ毎の厚みが違うので・・・ヒンジラインの厚みが上下とも湾曲した形状になるので、今度はテープヒンジが使えません。テープヒンジの場合も直線貼りが基本だからです。

● 本機の主翼の迎角は胴体の基準ラインに対して5度付いています。此れは地上駐機の場合です。飛行中は、どんな翼型でもその翼型自体が持つ姿勢に変化しますので、結果的に内翼は半対称翼・・・外翼はSカンバ―翼に変化します。此れがエルロン・ニュートラル状態で起こるので、結果的に外翼は捻じり下げの状態に成るんです。

● 本機の外翼の翼型は前縁からエルロンのヒンジラインを相似形翼型にしたので、結果的に翼弦の違うヒンジライン後部の動翼が出来ました。見た目楕円のアールを表現出来ましたが・・・其れがSカンバ―翼と同じ形状に成っただけです。ヒンジラインは通常のテーパー翼と同じですから、蝶番によるセンターヒンジも使えますし・・・翼上面に貼り込むテープヒンジも使える様にしました。 
● 胴体側の水平尾翼取り付け部分は、山型に成っています。丁度真ん中付近が半円状の溝に成っているんですが、此処に直径4mmのカーボンシャフトを埋め込みます。水平尾翼の裏側にも同様の部品が取り付けてあり・・・、此れを軸に水平尾翼の散り付け角度を変更します。胴体側の白く見えるPVC樹脂のブロックには、3mmのねじ山が切って有るんですが、水平尾翼毎この二本のビスを締め込んで、水平尾翼を胴体側に圧着する様に固定します。細かい水平尾翼の取り付け角度の変更は、この前後の二本のビスの締め加減で調整できます。尚!・・・今後の翼型の変更が無い場合は、このシーソー部分にピッタリ入るスペーサーを取り付ければ良いのです。その後は、水平尾翼の脱着ビスとして機能します。
 
● 胴体に開いた歪な孔・・・大御所さんの飼い猫(トラジロウ君)が爪とぎしたそう・・・。孔の修正にはお手持ちのバルサの丸棒に合わせて孔を成形します。凹んだ場所はバルサパテで埋めるとして、完全に中身が見えてる箇所は、丸棒に合わせて綺麗にヤスリで孔を成形します。画像は8mmと10mmです。
 
● 内側に2mm程露出させる感じで丸棒を埋め込んでいます。この時点ではまだ接着剤は塗りません。位置が決まったら、低粘度の瞬間接着剤を隙間に染み込ませて固定します。胴体の外皮から2mm程残して、薄刃の鋸で切り落として、サンドペーパーホルダーで胴体の表面に合わせて削り込みます。
 
● さて・・・いよいよ、主翼の組立に入ります。基本的にツーピースと呼ばれる左右二分割の主翼を構成する場合・・・、画像の様にカンザシ受けのパイプを内蔵する主翼の付け根はベニヤの部品で構成されます。ところがですねえ・・・このレーザー全盛の時代においても、そのカンザシ受けのベニヤ部品の組み方ってのは、昭和のやり方と同じです。実は此処に・・・モデラーさん毎の組立ての技術の差が出てしまうんです。

● 画像の様にベニヤ部品が反りも捻じれも無い平面だったら良いんですがねえ・・・。そのバルサキットが何時頃製造されたのか、その間どういう環境で保管されたのか・・・材料を刻んだ日から計算して、キット状態で保管が長ければ長いほど、部品は経年変化で脆く成ったり・・・反りが出たりします。そういった部品を正確に組み立てる方が難しい・・・。

● 画像みたいな複雑な構造を有したバルサキットなんか、大手のキットでは観た事が無いと思います。実に大袈裟な構造に見えてますが・・・、此処まで複雑にすると・・・複雑な組み方には成るんですが、少々反りの入ったリブ材でも正確な直角の交わりが出せる構造体にする事が出来るんです。
 
● 本機は自重4キロを超える大型機なので、4mmのベニヤで構成してるんですが・・・仮にスパンが2000mm以下ならば、2mmベニヤで構成しても良いですし、もっとスパンが短い小型機ならば・・・オール3mmバルサで構成しても支障は出ませんよ。ただし・・・瞬間接着剤でチャッ!チャッ!と組まずに、木工白ボンドをタップリ使うとか・・・エポキシ接着剤を使えば・・・。要するに・・・主翼の翼下面が受ける荷重が一番集中する所なので、好い加減な内部構造にしなければ良いって事です。
 
● 本機のメインスパーの画像です。本機のスパンは2900mm余り・・・。片翼分は1400mmなので、定尺900mmのヒノキを途中で繋いで作ってます。更に・・・内翼は6×10mmの溝なので、3×10mmのヒノキ棒を二枚重ねてあります。画像では右端が一枚に成ってますが、外側の楕円を含む主翼は・・・このリブのメインスパー溝が、翼端に向かって幅が細くなるテーパー仕様です。実は・・・実機の主翼内部でも、こういう複雑なスパー材を使って・・・翼端方向を徐々に軽量化する構造に成っています。

● 力学の話を専門にやっても理解出来ない人もいるんで簡単に説明しますね。仮に・・・コンクリートの穴開きブロックを両手で持った場合、胸の前で持った時と水平に腕を伸ばして持った時の、両方の二の腕に掛かる荷重は大きく変わるでしょう?・・・。同じ事が飛行機の主翼にも起きてるんですよ。よって翼端方向はなるべく軽量に成った方が、主翼の根元に掛かる荷重は減る事に成るんです。此れを無視した構造で飛行機を自作すると・・・飛行中に荷重に耐えられない主翼が折れたりするんです。
 
● 本機の全てのリブ型です。ベニヤのリブを含む内翼は矩形なので、すべて大きさが共通してます。其れに比べて外翼は前縁側は綺麗な相似形テーパーですが、後縁側は翼端が楕円です。しかし・・・メインスパーもサブスパーも、更にヒンジラインも均等にテーパー配置と成っています。よって・・・この外翼は相似形では無いんですなあ・・・。ただ!・・・ヒンジラインが直線なので、外翼に関して言えば・・・前縁からこのヒンジラインまでが相似翼に成るんです。本機の主翼の翼型構成・・・かなり複雑なんですが、この辺りがキットにしても売れないだろうと言われる所以でしょう・・・。

● 本機の主翼を全てのリブ型だけで判断すると、大変複雑で組立て難そうに見えるんですが・・・。メインスパーを基準に見ると、後縁側のヒンジラインもサブスパーも全て直線で構成されます。よって治具で使うアルミのアングル材も翼端までの高さの違いは有りますが、配置は実に単純なので普通に組める構造の主翼では有るんですがねえ・・・。見た目がねえ(笑)・・・。海外・・・特にヨーロッパやアメリカのモデラー達は、其れが自作機でもバルサキットでも自前の治具を使って組み立ててるでしょう・・・。この辺りが日本国内のモデラーと、海外のモデラーの組立に対する情熱と言うか・・・姿勢の違いって言うか・・・仕上がりの出来が大きく違うのは此処に有ると思うんですがねえ・・・。
 
● 本機の主翼は形状が複雑なテーパー翼なので、前縁材の後退位置と、メインスパー材のテーパー位置がズレて配置されています。通常の切り変え翼の場合・・・前縁から後縁までが一直線上に並ぶんですが、本機の場合は前縁とメインスパーの切り変え位置が違います。よって補強の部材も二種類必要に成りました。

● 上下のメインスパーの間に埋め込まれる補強板と、メインスパー後部のサブスパーに取り付けられる補強板の厚みと形状脳の違う二種類が必要になった訳ですが、この厚みのあるムクのバルサ材でも主翼に掛かる圧力の荷重に耐えられずに、破損する事も有り得ます。よって直径4mmのカーボンシャフトを、ヒノキの棒材で周囲を包み・・・10×10mmの角材として、補強板の中に埋め込みました。
 
● 通常バルサキットにおいての主翼二分割の場合は、このカンザシ受けパイプを組み込むベニヤ部品を左右の主翼に組み込んでからクリアランスを調整するんですけどね、この場合ベニヤのリブを主翼に組み込んでしまっているので、受けパイプのズレによる結合部の隙間や、左右の主翼の前後のズレには修復がとても大変な作業に成ってしまうんです。そういう事態に成ってしまったモデラーも多いと思うんですが・・・。長く継続した模型歴の何処かで・・・。

● そういった苦い状況を私自身も経験しています。そういう理由で、キットを色々と作る中・・・気づいてしまったのが画像の先組法です。此れならリブが少々湾曲していても、カンザシは常に胴体中心線に直角で交わり・・・主翼後部のサブカンザシとの平行配置の調整も全て終えてから全体を接着剤で拘束するので、主翼に組み込んでも左右の主翼のズレは起きません。ただ・・・主翼全体の捻じれに対しては別物なので、まずは!このカンザシユニットの部品を左右とも正確に組み立てる事を優先しましょう。
 
● 本機には実機には付けていない上反角を2度付けています。ベニヤリブの受けパイプの取り付け孔に其々段差を付けて、上反角設定に対応しています。画像でも解る様に・・・パイプの位置とメインスパー
補助板の上部との間隔に違和感が有るのはその為です。

● 胴体組み込みのカンザシユニットと主翼側のユニットの結合面のリブは、其々のユニットに直角に固定されているので其のままだと上反角2度分の隙間が翼の下面に出てしまいます。よって間に10mmのバルサを挟んで、この隙間を完全に取り去る加工を行います。この翼型の厚みのあるバルサリブは、主翼側に接着固定してあります。

● このバルサのリブとカンザシユニットのリブの上反角2度分を、予め2度の傾斜角を設定したサンドホルダーで削り落としてクリアランスを出して行きます。胴体側にカンザシが固定された最終状態で、このクリアランスを出すのがバルサキットの通常なんですけどね?・・・。原寸図面一枚の余白部分に補足説明を所狭しと書き込んであったのが、昭和のバルサキットの基本でした。組み立て方にはモデラー自身の段取りが自由に設定されていたんですが、細かい工程の指示が無いので・・・多分大勢のモデラー諸氏が、この部分の組立で苦労したと思いますよ。
 
● 画像は後部の補助カンザシです。飛行中の主翼に掛かる荷重はメインカンザシと同等ですので、其れなりの頑丈さも必要です。しかし・・・後部なので翼に厚みがありません。主翼に掛かる荷重はメインのカンザシと同等なので、其れなりのカンザシは必要です。カーボンシャフトとパイプを二本平行配置で、主翼側に埋め込むピンとして対処しました。ピンが短いのは曲げの強度が上がる目的と、胴体側に固定するカンザシユニットに埋め込むパイプには長さに限界があるからです。左右振り分けでこの長さに成りました。
 
● 定盤の上で主翼の組立治具を作る場合・・・、一番重要な部分は、メインスパー直下とヒンジラインです。此の位置を正確に算出してアングル材を固定します。本機の主翼は上面で上反角2度が入りますが、基本的な主翼の構造は主翼の上面で上反角が0度に成る様に治具台を組立てます。要するに・・・複雑なテーパー翼にも関わらず、更に複雑な上反角設定なので治具と成るアングル材の固定台となるブラケットが数種類必要になるのです。

● バルサキットでは特別なキット専用治具を別途販売していない限り、正確な主翼を作るには自前の治具を組む必要がありますが、其処まで深く図面を読まないので必要としないと判断する購入者が殆どです。メーカー側もそういった細かい指示をしてしまうと、購入を躊躇うだろう事を予測して書き込みません・・・。其れが普通なんですよ。しかし・・・治具を使えば本来のキットの最終形が、確実に組み上がると言う事も覚えていて下さいね。

● 仮に・・・原寸大の図面がキットに付属していなくても、組み上がった主翼の骨組みだけからも・・・キットに記載されている主要諸元を頼りに治具作成に必要なデータは読み取れます。長く模型歴を重ねていると、過去の自分を振り返った時に現在の自分がどれだけ向上したかが解る筈です。その知識が貴方の技術に適わないレベルのモデラ―には、大変頼もしく思える知識の集大成と成るんです。(Part-2に続く)