✈ 霧ヶ峰式 鷹号 (セミスケール設定・工房オリジナル機) Part-1 (2) (3)

 ※ 霧ヶ峰式 鷹号は、鵜飼照彦氏の日大卒論で設計し、自身で製作されたソアラーです。グライダーのクラス分けは、大まかに三種類です。プライマリー(初級者用)・セコンダリー(中級者用)・ソアラー(上級者用)・・・このクラス分けは、搭乗者用なんですが、グライダー製造を志す作り手側にも該当します。

 ※ 今回、本機の製作に着手したんですが、メーカーのキットを作るのではなく・・・実機三面図を参考に、一からセミスケール設定の飛ばし易い性格を持つ機体に仕上げました。本機をバルサキットにした場合、主翼の二分割構造を支える胴体側のパイロンの工作が、初心者には組み難い構造ですので・・・必ずブーイングが出るだろうと予想出来たので、今の所・・・量産販売の予定はありません。
 
● 本機鷹号の胴体は、当工房オリジナル設計である(Early Bird Ⅲ型)と共通です。実は尾翼も共通なんです(笑)・・・。別に使い回してる訳では無いんですが、元々アーリーⅢ型が、鷹号の胴体を参考に設計したので・・・こういう使い回しが出来るんです。胴体内部構造にはスチレン製のキールフレームを採用しました。糸鋸盤の使用を極力限定し、作り易い構造を心掛けてみました。胴体の肉抜きが極端なんですが、このキールフレームに二枚側板のバルサシートで構成される胴体の為・・・作り易さと基準を採る機能以外、何の意味も成しません。むしろ・・・無くても良いんですが、後部胴体がトラス組なので基準は必要なんですよねえ。
 
● 何れ別機種への汎用も考慮しましたので、最初から5機分の材料を準備し、部品を切り出しました。厚さ5mmのスチレンシートは、中身は通常の発泡材ですが、両表面は熱を加えた後、急激に冷却して有るので極めて滑らかです。この処理によってシート自体に指向性を与えています。よってこのシートを胴枠とキールに使うと、圧縮とせん断には大変強く・・・胴体内部の構造体には打って付けの材質だと思います。

● 更に・・・このキールフレーム構造は、飛行機枠よりもむしろ船舶枠で多く用いられる構造です。二枚側板を有するラジコン飛行機のモデラ―よりも、ベニヤで構造体を形成する船舶愛好のモデラーの方が解り易いと思います。当工房の主は、学生時代の科学クラブで、パワーボートやヨットのラジコン模型・・・更にはプロペラ推進のエアーボートを作って来ました。その時代では、メカが大き過ぎて、今回の様な船舶枠のキールフレーム構造は使えませんでした。平成の時代に成って、人型ロボットの小型化が進むにつれ、サーボや受信機がどんどん小型に成りました。だから可能になったとも言える構造です。
 
● キールフレームの周囲・・・胴枠の周囲・・・必要な箇所には全て、短冊加工の1,5mmバルサを貼り込みます。後部胴体には垂直尾翼のジョイント受けと補強を兼ねたバルサシートを貼り付けます。余計な構造だと受け入れられないモデラーも居るとは思いますが、胴体の中心が直線なら・・・必ず左右が対称のカーブを有する胴体が組み上がるという法則なので、有効だと思うモデラーのみ実践して下さい。
 
● 左右対称の胴枠には、キールフレーム分の寸法も含まれていますので、この分を切り離します。切り離した胴枠は一対なので、他の同じ胴枠と混ぜない様にします。キールフレームと胴枠の接着には、透明で半練りの専用接着剤(セメダイン・スーパー)を使います。塗り込んだ面を一部溶かしながら硬化するので、少々時間が掛かりますので、動かない様にマチ針を刺します。
 
● ステルス機の様な六角胴枠配置で無く・・・そろばん玉みたいな配置の六角胴枠なので、自立させる事が出来ません。専用のキールフレームを挟んで固定出来る台座を作りました。此れで数か所のキールフレームを挟むと自立出来ますし、この台座を二本のアングル材で挟んで直線を出すと、キールフレームも直線に成ります。六角胴体の基本なんですが、隣り合わせの四面をプランクすると・・・意図的に捻じらない限り、最初の形状を完全にキープします。よって治具を使うのは、外皮四面の貼り込みまで・・・残りの面は、治具無しでも貼り込めます。
 
● 其々のプランクシートを貼り込む面は、全てバルサシートでコーティング下面ですので、普通に木工ボンドで接着出来ます。側面と底のプランクシートが途中で切れてるんですが、此れより後部の胴体は六面共トラス組と成るので、中身が丸見えに成ります。トラス組を隠す時は、色付きのフィルムを貼り込み、トラス構造を楽しみたい時は、トランスパレントのフィルムを貼りましょう。
 
● 機首の先端にブロックで形成するノーズコーンをエポキシ接着剤で貼り込みます。余った接着剤は、ノーズコーンを貼り込んだ機首先端の胴枠と側板の接する角に盛り付けて補強します。この角には、他の箇所で使ったエポキシの余りは、全て盛り付けると良いですよ。昭和の黎明期のモデラーなら、当たり前に行っていた技術です。

● ついでにコクピット兼機首のメカハッチも材料取りしてしまいます。真ん中の二本の成形ブロックがコクピットの材料です。左右二本のブロックを繋いで一個と成ります。一度切り離した両端のブロックを、もう一度両面テープで中のブロックに貼り付けて、直方体のブロックに戻します。
 
● 胴体の機首メカ室の形状に合わせて、コクピットを成形します。直方体に戻したのは基準を採り易くし・・・糸鋸盤での切り出し加工をし易くする為です。今度はコクピットのパイロットの搭乗部分を切り出します。形紙を使ってボールペンでトレースし、糸鋸盤で切り抜きます。
 
● パイロットの搭乗スペースを繰り抜いたら、同じ形紙で床板を作って貼り込みます。パイロットの全身を搭載できる位のメカ室では有りませので、肩から上の上半身のみのパイロットしか搭載出来ません。此処までの作業を一気に進め・・・コクピットを胴体に仮止めした状態で、機首を成形して行きます。
 
● 胴体先端の機首ブロックの上部と。メカハッチの先端に隙間が見えますが、このハッチはビス止めなので、この隙間には薄いベニヤを貼り付けて、タッピングビスが捻じ込める様にしました。このネジを締め込んで、メカハッチを固定出来てから、機首廻りの全体的な削り作業を行います。一部後部胴体のトラス棒も胴枠間の対角上にバルサの棒材を取り付けて行きます。
 
● 此処までの工程が鷹号とアーリバードⅢ型の共通構造です。此処から先の胴体は鷹号へと変化して行きます。このⅢ型と初期のⅠ型は、其々バルサキットとして販売の予定です。基本的構造は残しますが、多分・・・何処のメーカーさんも使っていない構造と組み立て方法のキットに成ろうかと・・・。ただし・・・この日本の模型業界の習わしなんですが、飛行機の構造に関しては、特許を取らない方針で、この時代まで来ました。黎明期の加藤無線の社長さんやカルト産業の沖さんが、アメリカから真空管式のラジコン機を日本に持ち帰り、その後研究開発して日本独自の技術で国産のラジコン飛行機を発売・・・。特許を申請しての独占販売をしませんでした。普及しないからです・・・。そのお陰で日本国内にあらゆる専門メーカーが誕生しました。そのメーカーさん達の独自開発によって、現在の模型業界が存在しています。

● しかし・・・ネット普及後の模型業界の為体は、目を覆いたくなります。どこぞのブログの管理人さんが開発した技術だから、同じ物を使う時は使用料を払え!・・・とか、必ず出向いてお断りを入れろ!・・・とか、そのページの掲示板の閲覧者の中には、平成に成ってからのモデラーが多く、昭和の黎明期を知らない狂信的なモデラーが増えてしまいましたね。教祖的モデラーさんでさえ、黎明期の模型業界の諸事情は知らないと思います。飛行機の構造は独占しては駄目なんですよ。ただし・・・OK模型のEZ完成機の様に、量産する為の組立ての為の工法に関しては、特許が取れます。
 
● アーリーバード・シリーズは、ショルダー翼の胴体にワンピースのガル翼を載せるだけの簡単構造で設計しました。通常のガル翼は、上反角の強い内翼を胴体の一番太い部分で強固に保持する為に中翼設定となっています。ショルダー翼よりも固定する範囲が広いので、翼幅を大きく採れます。よって滑空性能は大変良いのが特徴です。外翼はショルダータイプなので、上反角が無くても自律安定性能も大変良く、実物機も模型機も大変飛ばし易いです。

● ただ・・・中翼機であるが故の複雑な構造なので、ショルダー翼機や高翼機に比べると機体重量が重くなるので、そういった観点から言えば、翼面積は大きい方が翼面荷重を減らせるので、必然的にスパンが長く成ります。当工房のアーリーバードは、ショルダー翼の位置から更に外翼を上方に上げたので、高翼タイプのグライダーの様なロール軸の安定性を示します。全長が900mm近いのに、スパンは1700mm弱しかありません。しかし翼面荷重は、自重200グラムのハンドランチグライダーと同等なので、無風時のスロープサイトにおいて、サーマル(熱上昇風)のみでも高度が取れる性能を持っています。

● 初期型アーリーバードを量産するに当たり・・・多くの古株モデラーさんから開発の資金提供を受けたので、材料費と組立費用に充て・・・全部で30機製作しました。此れを当時、大観峰に集ったお仲間さんの中から、資金提供の古株さんの指名するフライヤーに生地完成機を無償で渡して飛行データを細かく収集してもらいました。ところが・・・何処からそんな噂が出たのか、全然売れないからタダで配ってサクラにしてるとか、親切にすればタダで貰えるとか・・・訳の解らない噂が独り歩きしてしまい・・・家族を巻き込む脅迫事件にまで発展する始末・・・。ラジコンブームも頂点に達する頃には、色んな購入トラブルが起こるんですがねえ・・・。まさか、家族に嫌がらせをすれば、自分の好きなカスタムグライダーを無料で作ってもらえる・・・なんて事を吹聴して廻るモデラーまで出現してしまいました。

● 吹聴して廻ったモデラーなんですが、表向きは有識者の大変紳士な人なので、誰も気づきません。が!薄気味悪い位の親切を連発するので、その内周りが気味悪がって遠ざける様に・・・。其れが気に障ったのか、今度は親切を断るモデラー達にも嫌がらせを始めたので、化けの皮が剥がれて正体を知られてしまった次第・・・。タダで飛行機を配る?・・・そんな自滅覚悟の商売なんかしませんよ。自分の扶養家族は震災で亡くしましたし、両親も兄弟も既に他界・・・。襲われる家族も居ないので、此れからは怖い物無しの状況です。多分・・・直接襲って来るしか無いので、此れからは迷わず被害届を出します。

● アーリーバードの収集データは、色んな構造上のメリットを導き出してくれました。その一つが構造体のスチレン使用です。ベニヤとバルサの構造体にも柔軟なクッション性は有るんですが、スチレン構造体には敵いません。スチレン構造体もバルサと組み合わせると、大変頑丈に成る事も解りました。着陸時にカルスト台地の岩とゴッツンコ!・・・。キールフレームの内部はスチレン材・・・。スキッドはヒノキ棒・・・。派手にぶち当たったんですが、ヒノキ棒は凹んだけどスチレン構造体は無傷。クッション性の良さが証明されました。
 
● 上記画像を参照してくださいね。このスチレン材3枚積層板は、鷹号の主翼を載せるパイロンに成ります。真ん中のシートの一部を切り取って、エルロンサーボのリードハーネスを通すトンネルを作りました。アーリーの胴体と共通なので、キールフレームと胴枠がそのまま残っています。其処に挟み込む様にパイロンの底部にジョイントを設けました。更にスチレン製積層パイロンを中芯に外皮を2mmバルサでプランクします。此れで表面はバルサです。
 
● この部品は主翼と胴体を斜めに繋ぐ支柱の金具を固定する胴体側の台座です。本機の場合・・・主翼は構造上頑丈なので捻じれる事はありません。実機の場合は主翼の軽量化の為、構造が捻じれに対して若干弱かったので、片翼二本の支柱を使って、胴体と主翼を拘束・・・主翼の捻じれを防止しました。本機の場合も主翼は頑丈ですが、パイロンが折れる可能性も含め、荷重の一部を支柱に頼っています。
 
● 本機は生地完成の状態でオーナーさんに渡します。生地完成の状態で側面にハッチが無い場合、エルロンサーボ用のリードハーネスが通せなく成る構造です。よって作業性を良くする目的で、右側板にサービスハッチを設けました。リードハーネスを通し終わったら用済みですのでハッチは塞いでも構いません。側板シートの裏面に裏打のバルサの足場を取り付けて、ハッチの固定を容易にしました。
 
● パイロンと胴体には隙間が残っています。此処を塞がないとパイロンが胴体上で安定して固定されません。コクピット後部のヘッドパネルを嵩増しで成形・・・。其れに沿う様に斜めの胴枠を追加して、バルサシートを横目で貼り込みました。横目で貼ると木目が支柱と成るので、パイロンが安定します。
 
● パイロン後部の成形です。実機鷹号と同じ様に天板を取り付けて、側面はバルサシートでプランクしました。この辺は実機のスケール通りに綿密に作らなくても良いですよ。本機鷹号は最初からセミスケール設定ですから・・・。一条氏の設計されたガルモデルの数々のスケール機を、完全スケール機だ!・・・と評したブログの管理人さんが居ました(笑)・・・。ガルモデルから販売されていたグライダーの数々は、全て一条氏が再設計して作り易く飛ばし易くしたセミスケール機ばかりです。だから・・・作れるモデラーが沢山居ましたし・・・飛ばせるモデラーも沢山居たんですよ。実機グライダーの完全スケールにするには、バルサで表現するには無理が在るんですよねえ・・・。だから形を崩してセミスケール化・・・。
 
● 実機を模したスケールグライダーの泣き所は、テールヘビーに成り易く重心合わせの為に、機首の先端に鉛等のバラストを積むのを前提に、実機通りのモーメントで作ります。ところが・・・その重心合わせのバラスト搭載が、翼面荷重を増やしてしまうので浮きが悪く成ります。浮きが悪いという表現はある意味専門用語・・・実際にお山に登って飛行中の機体を観て感じる正直な答えの事です。

● その日のスロープサイトの風速条件に、初飛行の機体が上手くマッチしない時は、大概の原因はその飛行機の沈下ベクトルの矢印の向きが、浅い角度か深い角度で表現されるので・・・風速が弱いのに沈下ベクトルの矢印が深い角度だと浮きが悪いなあ・・・と成ります。無動力設定のグライダーは常に前進しながら降下しています。降下しながらも揚力は発生しますので、エレベータを使って気流の層のどの位置を飛ぶかによって、高度を上げたり下げたりします。推力が無いんだから、常にグライダーは高度を下げようとするんですが、風速に見合った適正重量のグライダーならば高度を上げたり下げたりが自由自在に出来ます。この状態を称して、浮きが良い!・・・と表現します。

● 要するに・・・その日の風速が弱い時に、高翼面荷重の飛行機を持ち込んでも希望通りに風に乗ってくれません。その日の風速に合わせたタイプの飛行機なら飛ばせますが、その条件から外れた飛行機は浮かないので飛ばせません。推進装置を持たない自由落下のグライダーを、華麗にお山で飛ばそうとするならば・・・その日の風速に合わせた翼面荷重の機体を投げるというのが一番賢いと言う事です。

● で!・・・本機の場合。実機の完全スケールならノーズモーメントが短いので重心が合いません。実機は人がバラスト代わりに成るんですが、スケールダウンした場合の模型機の場合はラジコンメカがその代わりと成ります。その比重から言えば、ラジコンメカは普通よりも重いタイプを積まなければ、人の重さとは比重が合いません。よって重心を合わせ易くする為にノーズモーメントを延ばし、テールモーメントを短く設定します。テールモーメントを短くした分、尾翼の面積を広げてやれば飛行性能におけるつり合いは採れます。

● 実機の大戦スケールの場合・・・重心位置からのノーズモーメントとテールモーメントは、約1対3の割合です。此れは搭載エンジンが重いので機首を短く出来るのが要因です。テールモーメントが長ければ尾翼は小さく出来ますので、パイロットにとっては過激な飛行挙動が無い分飛ばし易く成るんです。模型機の場合・・・実機搭載のエンジンよりも、馬力が無い分軽量なので、実機のモーメント比率のままでは、重心が合いません。重心を合わせる為には、機首のエンジン回りにラジコンメカを集中搭載するしかありませんが、容量にも限界が出て来ます。完全スケールのモデラーさんの大戦機・・・カウリングの空きスペースにメカを集中させるのは、全て重心調整の為です。本機の場合は前者の設定・・・。重心が取り易い様に、機体のモーメントを変更したのでセミスケール設定・・・。地上審査ならドンケツ確定ですけどね。飛行審査なら及第点は貰えますよ(笑)・・・。(Part-2に続く)